「あの人ばかり評価される」のが気になるとき——職場の嫉妬の正体と向き合い方

会議で同僚の企画が満場一致で採用された瞬間、自分も拍手しながら、胸のあたりがきゅっとなった。
隣のデスクの人が上司に褒められているのを横目で見ていたとき。後輩が社内表彰されたことを朝礼で知ったとき。「おめでとう」と言いたいのに、心のどこかで「なんであの人ばかり」とつぶやいている自分がいる。
そしてそんな自分に気づいた瞬間、いちばん傷つくのは自分自身だったりするんですよね。
私にも覚えがあります。20代後半のころ、同じチームに私より後から入ったのに大きなプロジェクトを任される同僚がいました。ミーティングでも真っ先に意見を求められる。私だって同じくらい頑張っているのに——そう思うたびに、自分の器が小さく感じられて、すごくしんどかったんです。あの感情の正体がわかったのは、心理学を学び始めてからのことでした。
人が「比べずにいられない」理由
心理学では、「人は自分の立ち位置を、周囲の他者と比べることで確認しようとする」とされています(社会心理学者フェスティンガーの理論)。つまり嫉妬は性格の欠点ではなく、自分を正しく把握しようとする脳のしくみが引き起こすものなんです。
そしてこのしくみには、特徴的なクセがあります。
- 相手が自分と近い立場にいるほど反応が強まる(同僚、同期、同年代)
- 自分が大事にしている領域で差がつくと刺さる(仕事の評価、スキル、人望)
- その差が努力量では説明できないと感じると、モヤモヤが大きくなる
別の部署の知らない人の昇進には何も感じないのに、毎日顔を合わせる同僚の成果には胸がざわつく。それは相手がちょうど「比較の射程圏内」にいるからです。
嫉妬には「2つの顔」がある
オランダ・ティルブルフ大学の心理学者ニールス・ファン・デ・フェンは、嫉妬を2種類に分けて研究しています。
ひとつは「悪性の嫉妬(malicious envy)」。相手を引きずり下ろしたい、成功が消えてほしいと感じる方向の感情です。もうひとつは「良性の嫉妬(benign envy)」。「あの人みたいになりたい」「自分ももっと頑張ろう」と、自分を動かすエネルギーに変わっていく感情です。
たとえば、同僚のプレゼンが上手くいったのを見て「あいつの企画、潰れればいいのに」と思うのは前者。「私もあんなふうに堂々と話せるようになりたいな」と感じるのは後者です。同じ出来事でも、嫉妬がどちらに傾くかは、そのときの自分の状態——疲れ具合や自己肯定感の高さ——によって変わります。
嫉妬は「自分が本当に欲しいもの」を映し出す鏡でもある。
同じ「ずるい」でも、その奥にあるのが怒りなのか憧れなのかで意味がまったく変わります。大事なのは、その感情を「いけないもの」として蓋をしてしまわないことです。

嫉妬する自分は「器が小さい」のか
でもね、先に言っておきたいことがあって。嫉妬を感じること自体は、あなたの人格とは関係ないんです。
「嫉妬するなんて器が小さい」と自分を責める人は多いのですが、それはむしろ脳の比較機能が正常に働いている証拠です。問題になるのは、嫉妬に飲み込まれて行動が変わってしまうとき——相手を避けたり、陰で悪く言ったりしてしまうときです。
感情と行動は、別のものです。感じてしまうことと、それにどう対処するかは分けて考えていいんですよね。
それから、もうひとつだけ。「評価されているあの人」の側にも、外からは見えない景色があります。
- 目に見える成果の裏で、人知れず努力や根回しをしている
- 上司との相性がたまたま合っただけで、別の場面では苦労している
- 本人も「自分ばかり目立っている」ことに居心地の悪さを感じている場合がある
「ずるい」と感じるとき、私たちは相手のハイライトだけを切り取って見ています。でも人の仕事って、表に出ている部分はほんの一部です。評価されている人にも、見えないところで悩んだり、失敗したりしている時間がある。そこを想像してみるだけで、胸のざわつきが少しだけ和らぐことがあります。
嫉妬と上手に付き合うための3つのヒント
ヒント① 「ずるい」の中身を言語化してみる
「ずるい」と感じたら、一歩だけ踏み込んでみてください。「私は具体的に何がうらやましいのか?」と。評価されていること? 自信を持って発言できること? 上司との関係が良好なこと?
これは心理学で「感情ラベリング」と呼ばれる手法に近いものです。カリフォルニア大学のマシュー・リーバーマンの研究では、感情を言葉にするだけで、不安や怒りを処理する扁桃体の活動が抑えられることが確認されています。
「ずるい」を分解してみると、案外それは自分の「こうなりたい」に気づくきっかけになります。帰り道に心の中でつぶやくだけでもいい。言葉にした瞬間から、感情の輪郭が少しずつはっきりしてきます。
ヒント② 比べる相手を「過去の自分」に変える
同僚との比較が止まらないときは、意識的に比較の軸を切り替えてみてください。「半年前の自分と比べて、できるようになったことは何だろう?」と。
他者との比較そのものを止めるのは、正直なところ難しい。でも、比較の方向を「自分の変化」に向けることはできます。
たとえば、週の終わりにスマホのメモアプリを開いて、「今週、先月の自分にはできなかったこと」をひとつだけ書いてみる。会議で一言だけ意見を言えた、苦手な資料を期限内に出せた——そんな小さなことでいいんです。続けてみると、思った以上に自分が動いていることに気づけます。
ヒント③ 嫉妬している自分を、少しだけ許してあげる
これがいちばん難しくて、でもいちばん大事かもしれません。
私自身、あのころノートに「ずるい」と走り書きしたことがあります。でもその下に「じゃあ私はどうなりたいの?」と書き足したとき、出てきたのは「私も自信を持ってプレゼンできるようになりたい」という、わりと素直な願いでした。嫉妬の奥には、ちゃんと自分の「なりたい姿」が眠っていたんです。
「あの人がうらやましい。それは私が頑張りたいと思っている証拠だ」——そう捉え直すだけで、嫉妬は自分を責める道具から、自分を理解するための手がかりに変わります。
嫉妬をゼロにしようとしなくていい。「あ、また比べてるな」とふと気づけた瞬間、もうその感情の一歩外側に立てています。その「気づき」こそが、変化のはじまりです。

まとめ
同僚への嫉妬は、自分の心が発している静かなサインです。「あの人ばかりずるい」の裏側には、「自分も認められたい」「もっとこうなりたい」という、とても真っ当な願いが隠れています。
だから、その感情を恥ずかしいものだと思わなくて大丈夫。嫉妬は、あなたがまだ諦めていない証拠です。
その気持ちに気づけたあなたは、もう十分に自分と向き合えています。焦らなくていい。自分のペースで、少しずつ。
— みなと
コメント